我谷盆と森口さん

2月11日に青山ファーマーズマーケットで併催された、TOKYO CRAFT MARKET Season04。
会場で販売されたZINE、Craft -Art for Life- 04の取材で、滝ヶ原ファームがある小松市の隣町、加賀市の山中温泉の程近い、我谷村で生まれた我谷盆を取材してきました。

 

我谷盆は、昭和40年にダムに沈み、現在は存在しない我谷村で作られていました。
我谷村は、山中温泉に程近い山間部に位置し、九谷焼の産地である久谷村の隣にありました。
山中温泉の近辺には、山中漆器の工房が数多く点在しています。ロクロで木地を挽く山中漆器にあって、栗の生木を楔で裂いていく我谷盆は、異端中の異端です。
我谷村は元々板屋根の産地で、その端切れを有効的に使うために作られた生活道具でした。ノミ一本で削っていくため彫りの風合いがとても美しく、畑の畝や、縄文土器を想起させる原始的な魅力を感じさせます。

 

ダムに沈むことで途絶えてしまった我谷盆ですが、漆芸家であり木工家でもある人間国宝の黒田辰秋氏によって見出され復活を遂げましたが、残念ながら現在もその継承は危ぶまれています。
そういった現状を変えるために、我谷盆を次世代に継承する活動に力を注いでいらっしゃる森口信一さんは、京都在住ながらも定期的に山中に通い、近くの風谷村にアトリエを構え、我谷盆の担い手に出会うために、北陸を中心にワークショップを行っています。

取材日は何度目かの寒波のあとで、アトリエまでの道はほぼ雪に埋まっていました。スコップで雪を搔きながら進み、半日かけてたどり着いた先に広がるその風景の美しさに、静かに興奮しました。

 

 

生木の栗の木の丸太を楔で割いていく。
割いてしばらく乾燥させた一片を、そのたたずまいを確認しながら彫り進めていきます。
左手にノミ、右手にハンマー。よどみなく打ち続けられるハンマーの音と、薪ストーブのパチパチと燃える音。
冬の山間の工房は、寒さに目を瞑れば理想的な製作環境です。

 

 

自分の作風とよく似た我谷盆に出会い、その技法を調べるのに一苦労した経験から、森口さんは我谷盆の存続を危惧し、継承に努めました。
我谷と同じようにダムにしずんでなくなってしまった運命をもつ、九谷焼の若手の作家、上出長右衛門窯の上出惠悟さんに声をかけ、少しでも多くの人に知ってもらうため共同展を開き、コラボレーション作品を展示するなど、制作の合間を縫って、精力的に活動をされていました。

 

 

取材を通じて我谷盆の素朴な風合いにすっかり魅了されてしまいました。それ以上に、作家森口さんの心意気に強く共感して、こころから応援したくなりました。
タイミングの良いことに、取材日から数週間後に金沢でワークショップを開催することを聞き、早速体験しにいってきました。

どんな手仕事もそうですが、眺めているのと実際にやってみるのでは大違い。
いくつもの工夫と熟練の技術があり、生木とはいえ硬い栗の木ですから、その変化に合わせて彫り方を変えていく必要があって、参加者の皆さんはその変化に苦労しながらも、少しずつ慣れていくころには、それぞれの我谷盆が出来上がっていきました。

 

 

現在滝ヶ原ファームには、森口さんが取材時に作ってくださったお盆と、上出さんとのコラボレーション作品が展示されています。
滝ヶ原ファームにお立ち寄りのさいは、ぜひ作品を見てください。
我谷盆の魅力がたくさんの方に伝わり、このすばらしいお盆が、後世に残ってくれることを祈っています。

 

 

黒田氏が残した我谷盆賛。それを地で行くような気骨ある職人の森口さん。
滝ヶ原ファームでも、森口さんのワークショップを開催したいと考えています。
このブログで案内が出せる日が楽しみです。

https://www.tokyocraftmarket.jp/

Photo&Text / Yoichi Naiki

2017.3.1